1/28(水)、行って参りましたよ、24年ぶりのニューアルバム"IF THE WORLD WAS YOU"を引っさげてのJ.D. Southerの日本公演。ニューアルバムの発表が24年ぶりの、僕の知る限り15年くらいは来日していない還暦を過ぎたミュージシャンの日本公演……ことによるとこれが最後のチャンスになるかも知れないという危惧もあり、いき勇んで出かけます。
さて、本日は大枚7800円をはたいて、最前列か2列目の席であることが予想される「自由席エリア」とやらを予約します。現地には開演1時間半前の開場時間頃に到着。「高額な方の自由席」だけのことはあって出来るだけ良席にありつこうと、お客さんの到着も早いわけです。僕はステージ中央から二つ目のテーブルに通されます。つまり概ね4メートルくらいの位置にJ.D.が立って演奏する、というわけです。ステージ上のアーティストが米粒のようにしか見えず、しかも結構な金額を取られるライブに慣れている僕にとって、「神」のひとりがこの距離で歌うのが見られるわけですから、この時点で7800円は「大枚」から「恐ろしく安い買いもの」に変化するわけです(笑)。
それにしてもオシャレなお店です。ステージの向こうの窓からは六本木の夜景、間接照明に映し出された調度品もどことなく落ち着いて見えます。僕の隣ではコース料理を食べながら談笑する品の良さそうなご婦人お二人。給仕をする店員さんも、思わず「ギャルソン」などと、使いなれない言葉で表現したくなるくらいオシャレです。そのギャルソンが僕のところにもオシャレなメニューを持って来ます。そこには様々オシャレな飲み物食べ物が載っている訳ですが、オシャレでない僕には何が何やら皆目分からない。結局辛うじて理解の範疇にあった「アサヒスーパードライ(生)」を所望します。こうして、ボサボサ長髪のメタボなメガネ中年男がかねて購入の日刊ゲンダイを読みながらビールを飲んでいるという図が出来上がり……如何に僕が場違いかお分かり頂けるかと(笑)。
さて、ステージにはスタインウェイのグランドピアノとGibsonの小さいボディーのアコギが2本。。ボディーは同じサイズでないかと思われ、いずれもピックアップが載っています。方やブラウンサンバースト、方やナチュラル。後で判ったことですが、サンバーストの方はレギュラーチューニング、ナチュラルの方はオープンGチューニングです。
7時。ステージ後ろに六本木の夜景を見せていたガラスの前のカーテンが閉まります。薄いグレーのスーツに濃いめのグレーのシャツにノーネクタイ、かなり寂しくなった白髪にかなり白くなった無精髭の初老の男性がステージに立ちます。「色男」もやはり歳は取るわけです(笑)。短いMCの後、早速"Simple Man, Simple Dream"からライブは始まります。この時にやっと自分の前に立っている初老の男性がJ.D. Southerであることをアイデンティファイします。やはり寄る年波なんでしょうか、憂いを含んだ艶やかな高音はちょっと影を潜めた感じはしますが、それでも中域から低音域にかけて時々顔を出す、何ともJ.D.らしい色っぽい「ヨレ」というか「余韻」というか、そのあたりに僕の大好きな「J.D.節」は健在でした。
ところで、ちょっとびっくりしたプレイを一つご紹介しておきます。"Baby Come Home"という曲ですが、この曲はアルバム"Black Rose"に所収された曲で、J.D.のボーカルにJoe Walshのスライドギターが絡んでいく、らくた垂涎モノの曲です。J.DはオープンGチューニングのギターを持ちます。この曲は間奏のところで同主調転調するのですが、間奏に入るところでこのギターの2弦を半音下げ、またメインに戻るところでは2弦を半音上げるという荒業をやっていました。ギター一本での弾き語りでこういうことをするのもアリなのか……と、いたく驚いたらくたでした。
今回のライブは全てJ.D.のギターかピアノの弾き語りだったのですが、聞いているうちにあることに気づきました。「実はJ.D.はギターよりピアノの方がうまいのではないか」という疑問です。そしてその「疑問」は、少なくとも今回のライブを見る限り、ライブが進めば進むほど僕の中で「確信」に変わっていったことも付け加えておきたく……(笑)。ただ、僕がJ.D.の信者であることは一定程度差し引くにしても、やはり彼の歌の「説得力」はものすごいものがあるような気がします。この曲がJ.D.の曲であることはさっぱり忘れていたのですが、Don Henleyがイーグルス解散後最初に発表したアルバム、"I CAN'T STAND STILL"に収録されている"Talking To The Moon"という曲があります。ピアノ弾き語りで歌った(これ自体かなりのサプライズでした)のですが、ひょっとするとDonの歌ったものよりもいいかも知れません。彼の歌う歌には、上手い下手とか、そういう次元をはるかに超越した「作った人にしか出せない何か」を感じるんです。それが僕にとって彼が「神」たる所以であり、目指したいものでもあるんじゃないかと思うんです。
新旧取り混ぜて様々な歌が歌われます。ところが僕、最新アルバムは全部の曲名が即座に分かるというところまでは聴き込んでいきませんでした。したがって曲名が分からなかった曲は"IF THE WORLD WAS YOU"の曲ということになります。ところがどうもこれらの曲の方がJ.D.の声が輝いて聞こえたんですね。もちろんアルバムでのイメージが僕の中にきちんと出来上がっていないということもあるでしょうし、また特に新曲の場合、今のJ.D.のキーにあった曲であるということもあるのかも知れません。ただ、一方で言えそうなのが、J.D.はまだ「現在進行形」のミュージシャンであるんじゃないか、ということです。おそらくこれほど寡作なミュージシャンも珍しいのですが、どうやら「考えている時間」が極端に長いだけのことで、まだ彼の中には「今」作って歌いたい歌があるんじゃないかという感覚。新曲になると活き活きする感じ……もちろん彼のことなので何年後になるか分かったもんじゃありませんが、生きているうちにもう一度や二度は新しい「現在進行形のJ.D.」を僕が耳にするチャンスがあるんじゃないか……と期待できたというのが今回のライブの偽らざる感想です。
さて、ライブも佳境に入り、イーグルスが最新作でカバーした"How Long"、そしてJ.D.の代表作である"You're Only Lonley"と続き、ライブは終わります。もちろんこの後でアンコールがあるわけですが、この2曲をやってしまうと最後に何が来るんだろう……と思っていると、最後はイーグルスの"The Best of My Love"です。特にものすごい思い入れがある曲というわけではないのですが、この曲の前奏が流れてきた時、何故だか分からないのですが涙が出そうになりました。この曲を残してステージから引き上げていったJ.D.に心からの喝采を送ったことは言うまでもありません。
この後、もう1ステージあるので、見て帰ろうか迷ってのですが、かなり集中していたんでしょうね、ものすごく疲れを感じていました。後ろ髪をひかれる思いはあったものの、結局帰途に着きました。一方でそこには、「きっとJ.D.はまた僕らに新しい彼の歌を届けに来てくれるはずだ」という確信めいた感覚があったのも事実です。
また、是非新しい歌を引っさげて、歌いに来てくれると信じています。
セットリスト(一部分からなかった曲がありますが、後で確認したものも含めて。括弧内はアルバム名)
1.Simple Man, Simple Dream("BLACK ROSE")
2.White Rhythm And Blues("YOU'RE ONLY LONELY")
3.I'll Be Here At Closing Time("IF THE WORLD WAS YOU")
4.New Kid In Town(EAGLES"HOTEL CALIFORNIA")
5.Jesus In 3/4 Time("JOHN DAVID SOUTHER")
6.I'll Take Care Of You("HOME BY DAWN")
7.Baby Come Home("BLACK ROSE")
8.Go Ahead And Rain("HOME BY DAWN")
9.Silver Blue("BLACK ROSE")
10.Journey Down The Nile("IF THE WORLD WAS YOU")
11.Faithless Love("BLACK ROSE")
12.A Chorus Of Your Own("IF THE WORLD WAS YOU")
13.Talking To The Moon(Don Henley"I CAN'T STAND STILL")
14.The Border Guard("IF THE WORLD WAS YOU")
15.Rain("IF THE WORLD WAS YOU")
16.How Long("JOHN DAVID SOUTHER")
17.You're Only Lonely("YOU'RE ONLY LONELY")
(アンコール)
18.The Best Of My Love(EAGLES"ON THE BORDER")